履行の着手とは?不動産売買における具体例を徹底解説|手付解除との関係・実務判断基準まで詳しく解説

はじめに

不動産売買契約において

頻繁に問題となる論点の一つが

「履行の着手とは何か?」

という問題です。

特に、手付金を支払っている場合、

  • いつまでなら手付放棄で解除できるのか
  • いつから解除できなくなるのか
  • ローン実行は履行の着手か?
  • 登記準備はどうか?

といった点が、

実務上非常に重要になります。

本記事では、

不動産実務の現場で

問題となる具体例を挙げながら、

履行の着手の判断基準を解説します。

履行の着手の法的根拠

履行の着手が問題となるのは、

民法557条1項(手付)です。

当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、
買主は手付を放棄し、
売主はその倍額を償還して契約を解除することができる。

つまり、

✔ 履行の着手「前」 → 手付解除可能
✖ 履行の着手「後」 → 手付解除不可

というルールになります。

履行の着手とは何か?

判例・通説によれば、

履行の着手とは

契約の本旨に従った給付の実現に向けた具体的・現実的行為

とされています。

ポイントは次の3点です。

  1. 単なる準備行為では足りない
  2. 外部から客観的に認識できる行為であること
  3. 契約内容の実現に直結する行為であること

つまり履行の着手の準備行為は

該当しないことになります。

履行の着手なのか?

それとも準備行為なのか?

このあたりが曖昧なところがあります。

不動産売買における履行の着手【買主側の具体例】

ここが最もトラブルになる部分です。

(1)手付金の支払い

👉 これは履行の着手には該当しません。

手付金は契約成立の証拠であり、
本来の給付(代金全額支払い)とは別です。

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(2)中間金の支払い

👉 原則として履行の着手に該当します。

中間金は売買代金の一部であり、
契約の本旨(代金支払い)そのものだからです。


(3)残代金の支払い

👉 明確に履行の着手に該当します。

残代金を支払えば、

当然手付解除はできません。


(4)住宅ローンの事前審査申込み

👉 原則として該当しません。

事前審査はあくまで準備行為です。


(5)金銭消費貸借契約の締結

👉 事案によります。

判例上、融資実行前であれば

履行の着手と認められない場合もあります。


(6)融資実行(銀行からの入金)

👉 履行の着手に該当する可能性が高いです。

特に、

  • 司法書士が待機している
  • 決済日である

といった場合は、

ほぼ履行の着手と判断されます。


(7)所有権移転登記請求

👉 履行の着手に該当します。

登記請求は給付の実現に直結する行為です。

不動産売買における履行の着手【売主側の具体例】

売主側の履行の着手も重要です。


(1)抵当権抹消書類の取得

👉 原則として準備行為にとどまる場合が多いです。


(2)抵当権抹消登記申請

👉 履行の着手に該当する可能性が高いです。


(3)所有権移転登記申請

👉 明確に履行の着手です。

登記申請が行われれば、

契約は実行段階に入っています。


(4)物件の引渡し

👉 完全に履行の着手です。

引渡し後に手付解除はできません。


(5)建物の解体着手

👉 履行の着手と判断される可能性が高いです。

契約条件に「更地渡し」がある場合、
解体工事は契約履行行為と評価されます。

グレーゾーン事例

実務で判断が難しい例もあります。

ケース①:決済日前日の司法書士書類預かり

書類を預けただけでは、
まだ履行の着手とはいえない可能性があります。


ケース②:引越し準備

売主が荷物をまとめただけでは、
通常は準備行為です。


ケース③:リフォーム契約締結(買主)

これは第三者との契約であり、
本契約の履行とは直接関係しないため、
通常は履行の着手に該当しません。

履行の着手と宅建業法

宅建業者が売主の場合、

  • 手付は20%以内
  • 履行の着手後は解除不可

という強行規定があります。

実務では、

「いつ履行に着手したか」を巡って

紛争になることがあります。

トラブル事例(実務で多いもの)

■ 例1:高値買主が現れた

売主が倍返し解除を希望。

→ すでに買主が融資実行済みなら解除不可。


■ 例2:買主の気が変わった

決済直前にキャンセル希望。

→ 司法書士が登記申請済みなら解除不可。

実務上の対策

トラブルを防ぐには、

✔ 契約書で履行着手時期を明確化
✔ 決済スケジュールを整理
✔ 解除可能期間を具体的に記載(ほとんどはフォーマット的な形で解除期限を設けています)

することが重要です。

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まとめ|履行の着手は契約責任の分岐点


履行の着手とは、

契約の本旨に従った給付の実現に向けた
外形的・具体的な実行行為

です。

そして、

履行の着手前 → 自由解除段階
履行の着手後 → 契約責任段階へと移行します。

不動産売買においては、
判断一つで数百万円単位の結果が変わります。

契約締結前に、
履行着手時期を明確に整理しておくことが極めて重要です。

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