遺言があっても請求できる!?遺留分とは

はじめに
遺留分侵害額請求という言葉はご存じでしょうか。
遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)とは、
相続において最低限の取り分である「遺留分」を侵害された相続人が、
その侵害を回復するために請求する手続きです。
本来自分が相続人でもらえるはずだったのに、遺言で全くの他人
民法が改正されて名前が変わりましたが、改正前は「遺留分減殺請求」という言葉を使っていました。
今回は相続人の権利である「遺留分侵害額請求権」について詳しくみていきたいと思います。
解説
◆ 遺留分とは?
被相続人(亡くなった人)の意思によっても奪えない、一定の相続人に保障された最低限の相続分のことです。
対象となる相続人(=遺留分権利者)
- 配偶者
- 子(代襲相続人も含む)
- 直系尊属(親・祖父母など)
※兄弟姉妹には遺留分はありません。
◆ 遺留分の割合
遺留分の割合は次の通りです。
相続人の構成 遺留分全体の割合 各人の遺留分(例) 配偶者と子 法定相続分の1/2 配偶者:1/4、子:1/4(1人なら) 配偶者のみ 法定相続分の1/2 配偶者:1/2 子のみ 法定相続分の1/2 子:1/2(1人なら) 直系尊属のみ 法定相続分の1/3 親:1/3(1人なら)
◆ 遺留分侵害額請求とは?
被相続人が遺言や生前贈与によって、
他の人に多くの財産を渡していたために、遺留分をもらえなかった(または不足した)場合に、
その不足分の金銭を請求できる制度です。
請求の要件
以下すべてが必要です:
- 遺留分権利者であること
- 遺留分が侵害されていること
- 請求期間内であること
◆ 請求の方法(手順)
- 内容証明郵便などで請求意思表示
→ まずは相手方に「あなたが受け取った分は私の遺留分を侵害しています」と意思表示します。- 協議
→ 話し合いで合意できれば金銭で解決。- 家庭裁判所への調停・訴訟
→ 合意できない場合は裁判所に調停申立て・訴訟提起します。
◆ 時効期限(重要)
- 相続開始および侵害を知った時から 1年以内
- 相続開始から 10年以内
※相続開始と遺留分を侵害されていることを知ってから1年以内です
◆ 注意点
- 請求できるのは「金銭」に限られます。現物(不動産など)の返還は請求できません。
- 遺留分侵害額の算定には、生前贈与や遺贈も含まれます。
□一覧表
項目 内容 対象 子・配偶者・直系尊属 方法 内容証明 → 協議 → 調停/訴訟 請求期限 1年(知った時から)または10年(相続開始から) 請求できるもの 金銭のみ
ポイントしては、「相続人(兄弟姉妹)の権利であること」、「金銭での請求であること」です。
相続人が第三順位である兄弟姉妹のみで遺言で他人に遺贈するとした遺言が書かれていた場合、
本来の相続人である兄弟姉妹は遺留分侵害額請求をすることができませんので注意したいところです。
遺留分の計算は専門家の方で算出しますが、一般原則は下記の通りです。
【遺留分の計算手順】
◉ ステップ①:相続財産の合計(遺留分算定の基礎財産)を出す
以下の項目を合算して、基礎財産を求めます:
基礎財産 = 相続開始時の財産 + 生前贈与財産 - 債務
※生前贈与には、原則として相続開始前10年以内の贈与が含まれます。
(ただし、特別受益となる贈与は10年以上前でも含む場合があります)
◉ ステップ②:基礎財産 × 遺留分率
遺留分率は以下のとおり:
相続人の構成 遺留分率(全体) 配偶者や子がいる場合 法定相続分の 1/2 直系尊属のみの場合 法定相続分の 1/3 兄弟姉妹のみ なし(遺留分なし)
◉ ステップ③:個別の相続人の遺留分を計算
個人の遺留分 = 基礎財産 × 遺留分率 × 法定相続分
【具体例で解説】
■ 例:被相続人A(亡くなった人)
- 相続開始時の財産:5,000万円
- 生前贈与:1,000万円(長女に贈与)
- 債務:500万円
- 相続人:配偶者B、長男C、長女Dの3人
① 基礎財産を求める:
5,000万円 + 1,000万円 - 500万円 = 5,500万円
② 遺留分率を適用(このケースは配偶者・子がいるので1/2)
5,500万円 × 1/2 = 2,750万円(遺留分の総額)
③ 法定相続分を基に個別の遺留分を計算
- 配偶者:法定相続分は1/2 → 遺留分は 2,750万円 × 1/2 = 1,375万円
- 長男:法定相続分は1/4 → 遺留分は 2,750万円 × 1/4 = 687.5万円
- 長女:法定相続分は1/4 → 遺留分は 2,750万円 × 1/4 = 687.5万円
【遺留分侵害額の確認】
上記の各人の遺留分に対して、実際にもらった分がそれより少なければ、侵害額請求の対象になります。
たとえば長女が生前に1,000万円もらっていて、相続で何ももらっていないとすると、
彼女の取得分1,000万円は、法定相続分(1,375万円)を上回るが、他の相続人の遺留分を侵害している可能性があります。
◆補足:特別受益・寄与分の考慮
- 生前贈与された人がいる場合 → 特別受益
- 看病などで被相続人の財産を増やす貢献をした場合 → 寄与分
これらは最終的な相続分や遺留分に影響します。
遺留分に関する法律の条文
遺留分侵害額請求に関する民法の条文は、民法第1042条~第1049条に記載があります。
重要なところにはアンダーラインを引いています。
☑第1042条(遺留分の帰属及びその割合)
- 兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)は遺留分を有する。
- 直系尊属のみが相続人の場合、遺留分は遺産の3分の1。
- それ以外の場合(配偶者・子・直系尊属の組み合わせなど)は遺産の2分の1。
- 複数の相続人がいる場合は、法定相続分に応じて遺留分を分割する。
☑第1043条(遺留分を算定するための財産の価額)
- 遺留分の算定基礎財産は、被相続人が相続開始時に有した財産+贈与した財産の価額-債務の全額。
- 条件付きや存続期間不明の権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価による。
☑第1044条(贈与の算入)
- 相続開始前1年間の贈与は、遺留分算定に加える。
- 遺留分権利者に損害を与える意図の贈与は、1年以上前でも算入される。
- 相続人に対する贈与(婚姻・養子縁組・生計の資本)は、10年間遡って算入。
☑第1045条(負担付贈与等)
- 負担付贈与は、贈与の価額から負担額を控除する。
- 不相当な対価の有償行為も、遺留分権利者に損害を与える意図がある場合は負担付贈与とみなす。
☑第1046条(遺留分侵害額の請求)
- 遺留分権利者は、受遺者や受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる。
- 侵害額の算定方法は、遺留分から遺留分権利者が受けた遺贈・贈与額などを控除し、承継債務額を加算する。
☑第1047条(受遺者又は受贈者の負担額)
- 受遺者・受贈者の負担順序や割合を定める。
- 無資力による損失は遺留分権利者の負担。
- 支払い期限の許与も可能。
第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
- 遺留分侵害額請求権は、相続開始及び侵害事実を知った時から1年、または相続開始から10年で時効消滅。
☑第1049条(遺留分の放棄)
- 相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可が必要。
- 共同相続人の一人の放棄は、他の共同相続人の遺留分に影響しない。
遺留分(いりゅうぶん)は、
一定の相続人が最低限の財産を確保できるようにするために設けられた制度です。
遺留分がある趣旨は以下の通りです。
・家族の生活を守るため(生活保障)
被相続人が遺言や贈与で全財産を他人に与えてしまうと、
残された家族(配偶者・子など)が生活に困窮するおそれがあります。
遺留分は、そうした家族の最低限の生活基盤を守る役割を果たします。
・相続人間の公平を保つため(公平の原理)
特定の相続人だけが多く財産を受け取ると、他の相続人との間で不公平感や争いが生じます。
遺留分制度により、一定の取り分が保障されることで、相続トラブルの予防になります。
・被相続人の意思とのバランスをとるため
民法は原則として、被相続人が自由に財産の処分を決められる「遺言自由の原則」を採っています。
ただしその自由も無制限ではなく、
家族の保護とのバランスをとるために、遺留分によって一部制限しています。
おわりに
今回の話で遺留分に関することはおおよそ理解できたのではないでしょうか。
生活の保障のためにも遺留分制度は大切な制度であります。
自分が相続人で遺言で遺留分が侵害されていて困っているという場合は、
当事務所でも対応可能ですのでまずはお気軽にご相談ください。