農地転用に関するQ&A(行政書士がやさしく解説)

はじめに
農地を駐車場にしたい」「太陽光を設置したい」「相続した農地を売りたい」
そんなときに関係してくるのが、**農地法による「農地転用」です。
でも実際には、
「どんな手続きが必要なの?」
「許可を取らないとどうなるの?」
「誰に相談すればいいの?」
という疑問を持つ方がとても多いかと思います。
この記事では、郡山市を中心に農地法の申請を多く扱う行政書士が、
農地転用に関するよくある質問をQ&A形式でわかりやすく解説します。
Q&A 基本編
Q1. 「農地転用」とは何ですか?
A. 農地を農地以外の用途に使うことを「農地転用」といいます。
たとえば、住宅・駐車場・資材置場・太陽光発電などに利用する場合が該当します。
農地転用を行うには、**農地法の許可(第4条または第5条)が必要です。
- 自分の農地を転用する場合 → 第4条許可
- 他人の農地を転用目的で取得する場合 → 第5条許可
Q2. 許可を出すのはどこですか?
A. 原則として、都道府県知事または市町村の農業委員会が許可を出します。
ただし地域によって異なります。
郡山市の場合、市街化区域内であれば届出で足りることもありますが、
市街化調整区域内では許可申請が必須です。
Q3. 許可を取らずに転用したらどうなりますか?(無許可転用)
A. 無許可転用は重大な法律違反となり、次のようなリスクがあります。
リスク内容 解説
❌ 契約の無効 許可を受けずに売買・賃貸した契約は法律上無効となります。登記もできません。
❌ 原状回復命令 行政から「農地に戻すように」と命令されることがあります。
❌ 罰則 農地法第64条により、3年以下の懲役または300万円以下の罰金。法人は1億円以下の罰金の可能性も。
❌ 今後の申請が不利に 過去に無許可転用歴があると、将来の申請が通りにくくなることもあります。
Q4.どんなときに転用許可が必要ですか?
A. 以下のようなケースでは、必ず許可が必要です。
・農地に自宅や店舗を建てる
・駐車場・資材置場として使う
・太陽光発電設備を設置する
・工場や倉庫用地にしたい
Q5. 許可を取るのにどれくらい時間がかかりますか?
A. 郡山市の場合、通常の4条・5条申請で2ヶ月程度
農振除外(農業振興地域除外)を伴う場合は、半年以上かかります。
Q&A 事例編
Q6.農地を所有しており、農地に100㎡の農業用倉庫兼作業所を設けたいと考えています。農地転用の手続きは必要でしょうか。
A.自己所有の農地に一般の倉庫を建てる場合は農地法4条許可申請が必要となりますが、
200㎡未満の農業用倉庫の場合は農地転用の手続きは不要です。
よってこのケースでは農地転用の手続きは不要です。
Q7.農地に植林をしたいと考えています。このような場合は農地転用の手続きは必要でしょうか。
A.原則必要になります。
「農地」とは、耕作の目的に供される土地をいいます。
よって耕作の目的でないものは転用の手続きを必要とし、本ケースでは転用が必要になります。
○農地転用に当たらない主なケース一覧
ケース 判断 理由・解説 同じ農作物を作り続ける ❌ 転用に当たらない 利用目的が耕作のままだから 作物の種類を変える(例:米 → 野菜) ❌ 転用に当たらない 引き続き農業目的の利用 果樹園を他の果樹に植え替える ❌ 転用に当たらない 耕作目的が継続している 農地を一時的に休ませる(休耕地) ❌ 転用に当たらない 将来の耕作意思がある限り農地とみなされる 農業用ハウス・潅水設備・農道などを設置 ❌ 転用に当たらない 農業経営に必要な施設(附属的利用)であり、耕作を補助するもの 農機具置き場(屋外の簡易設置) ❌ 転用に当たらない 農作業の一環として利用される範囲内なら農地利用の延長 ビニールハウスでの苗育成・施設園芸 ❌ 転用に当たらない 耕作目的であるため農地性を失わない 農地に堆肥をまく・整地をする ❌ 転用に当たらない 農業生産活動の準備行為 農地の一部を用水・排水施設に使用 ❌ 転用に当たらない 農業用施設としての利用(農地性維持)
Q8.農地に広告用の看板を設置する場合は農地転用の手続きは必要でしょうか。
A.原則必要になります。
理由としては上記と同じく、「農地」の上に農地以外の利用をするためです。
通常通り農地転用の許可が必要になります。
看板設置が「転用に当たる」ケース
ケース 判断 理由 広告・宣伝用の看板(企業・商品PR) ✅ 転用に当たる 耕作目的を喪失しているため 不動産の売地看板・政治ポスター用看板 ✅ 転用に当たる 一時的でも農業利用ではない 駐車場・太陽光設備と併設する看板 ✅ 転用に当たる 農地としての利用をやめている コンクリート基礎・支柱を設置する ✅ 転用に当たる 構造物設置により耕作不能となる
転用に当たらない(例外的)ケース
ただし、次のようなケースは農業利用の範囲内と判断される場合があります。
ケース 判断 理由 農産物直売所・農園の案内看板 ❌ 転用に当たらない 農業経営上必要な附属施設として認められる 農地内に小型の案内板(木杭など) ❌ 転用に当たらない 一時的・軽微で耕作に支障がない 農地外(道路沿い)に立てる看板 ❌ 転用に当たらない 農地そのものを利用していないため対象外
Q9.農地転用のできない区域は存在しますか
A.農業振興地域農用域内の農地、市街化調整区域内の農地は原則転用禁止になります。
日本の土地政策の根幹にある「食料の安定供給」と「優良農地の確保」を守るため、
上記に該当する場合、農地転用は困難であるとみるべきです。
Q10.県道を拡張するために所有する農地を県に売却することになりました。農地転用の手続きは必要でしょうか。
A.農地転用の手続きは不要です。
農地法第5条は、農地を「譲渡して転用する」場合に許可が必要と定めていますが、
公共事業による収用・使用の場合などは、許可を要しないとされています。
Q11.相続登記が済んでいない農地の転用は可能ですか?
A.法定相続人全員の連名により、農地法5条申請は可能です。
なお遺産分割協議書が存在する場合は、遺産分割協議書に基づく相続人が申請者となります。
注意点
- 相続争い中の場合(遺産分割未了など)は、許可されません。
- 一部相続人の反対がある場合も、申請不可です。
- 農振地域内の場合は、相続登記の有無に関係なく「農振除外」が先行します。
Q11.将来に備えて事前に農地転用の許可を得て農地を購入することは可能でしょうか?
A.将来の転用を見越して、あらかじめ農地転用許可を得てから購入することは原則できません。
農地法第5条第1項では、
「農地を農地以外の用途に供する目的で、所有権を移転する場合は許可を要する」
と定められています。
しかし、ここでの許可は「具体的な転用計画」がある場合に限り有効であり、
「将来使うかもしれない」「とりあえず確保しておきたい」という理由では許可の要件を満たしません。
Q12.共有名義の農地を単独で農地転用の申請はできますか?
A.共有名義の農地については、共有者全員の同意がなければ単独で農地転用申請はできません。
転用は所有権の行使(処分行為)にあたるため、法律上単独で処分することはできません。
対応策(実務上の解決方法)
状況 対応策 他の共有者も同意している → 全員で連名申請(委任状添付も可) 一部共有者が同意しない → 同意を得るか、持分を譲渡して単独所有に変更(登記) 共有者が不明・所在不明 → 不在者財産管理人の選任申立て(家庭裁判所)後、代理申請可能 相続登記未了で共有状態不明 → 相続登記を済ませてから転用申請
おわりに
事例は数多くありますが、今回はその中の一部をご紹介しました。
上記内容は場合によっては、要件的に転用可能というケースもありますので、
農業振興地域、市街化調整区域に該当しているから農地転用できない...とあきらめず、
まずは専門家に相談しましょう。


