ペットに財産を遺す方法はある?――家族の一員を最後まで守るために知っておくべきこと

はじめに

あなたにとってペットはどんな存在でしょうか。


毎日の生活をともに過ごし、癒やしを与えてくれる大切な家族――

そう感じている方も多いでしょう。


けれども、もし自分が先に亡くなってしまったら、

その大切な家族であるペットはどうなるのでしょうか。

「ペットに財産を遺すことはできないの?」


「自分の死後もちゃんと世話をしてもらえるように準備したい」

このような不安や疑問を抱く飼い主は年々増えています。


本記事では、行政書士の立場から、

法律上の制約を踏まえながら、

現実的にペットに財産を遺す3つの方法をわかりやすく解説します。

ペットの法律上の取り扱いは?――法律の現実

まず知っておくべき基本があります。


日本の法律では、ペットは「家族」ではなく、民法上の物として扱われます。


つまり、法的には「相続人」になることができません。

人間や法人のように、直接財産を受け取る権利がないのです。

たとえば「私の愛犬ポチに1,000万円を相続させる」という遺言は無効になります


これは法律上、ポチが「財産をもらう権利」を持たないからです。

では、どうすればいいのでしょうか。


実は、「ペットの世話をしてくれる人」に財産を託すという形で、

間接的にペットに財産を遺す方法が存在します。


それが次に紹介する3つの方法です。

ペットに財産を遺す3つの方法

① 遺言(遺贈)で世話人に財産を託す方法

もっとも手軽で多くの人が利用できるのが、

遺言による「条件付き遺贈」です。


ペットそのものに財産を渡すことはできませんが、

「ペットの世話をしてくれる人(受遺者)」に対して、

世話費用としてお金を遺すことは可能です。

たとえば、次のように書きます。

「私の遺産のうち金300万円を、愛犬『モモ』の終生の世話費用として長男○○に遺贈する。受遺者は、モモの生活や健康管理を誠実に行い、その報告を遺言執行者に提出すること。」

このように、遺言書で「誰に」「どのような目的で」「いくら」渡すのかを明確にしておくことで、

飼い主の意思を実現できます。

また、「遺言執行者」を指定しておくことで、

受遺者が約束通りにペットの世話をしているかどうかを確認する仕組みを作ることもできます。

※遺言書の書き方に関する記事は下記より

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② 民事信託(ペット信託)を活用する方法

もう一歩進んだ方法が、民事信託(家族信託)を利用するものです。


最近では「ペット信託」という言葉で知られるようになりました。

民事信託とは、飼い主(委託者)が自分の財産を「信託財産」として信頼できる人(受託者)に託し、

その財産を「ペットの生活費」に使ってもらう仕組みです。

信託契約の中で、

「このお金は愛犬ポチのために使う」

「医療費・食費・トリミング費用などに充てる」といった目的を明記します。


受託者は契約上の義務としてその目的を守らなければなりません。

また、「信託監督人」を設定しておけば、受託者がきちんと管理しているかをチェックできます。


信託は長期的な管理に強く、

飼い主が亡くなった後も、

ペットの寿命が尽きるまで財産を計画的に使い続けることが可能です。

信託終了後(ペットの死後)に、

残った財産を誰に渡すか(残余受益者)も設定できる点も大きなメリットです。


③ 生前契約(委託契約)を結ぶ方法

もう一つの方法は、生前に世話をお願いする人と契約を結ぶことです。


これは「委託契約」や「飼育契約」と呼ばれます。

たとえば、信頼できる友人や団体と「私の死後、この猫の世話をお願いします。

その代わりに金200万円をお渡しします」という契約を交わしておくのです。

契約書に以下のような内容を明記します。

  • ペットの種類・名前・年齢・特徴(マイクロチップ番号なども)
  • 世話の内容(食事・医療・報告義務など)
  • 支払う金額や支払時期
  • 世話を継続できなくなった場合の対応
  • 紛争が起きたときの解決方法

この契約を公正証書化しておけば、

法的な証拠能力が強まり、トラブルの予防にもつながります。

遺言・信託・契約の比較と選び方

方法特徴メリットデメリット
遺言(遺贈)手軽・公正証書で可能手続きが簡単・費用が安い受遺者が約束を守らない場合の監督が難しい
民事信託長期的に管理可能ペット信託として制度的に強い手続きが複雑・専門家費用がかかる
委託契約生前に取り決め可能信頼関係を前提に柔軟に設計できる強制力が弱く、履行確認が困難

どの方法を選ぶかは、

飼い主の年齢、ペットの寿命、資産の規模、信頼できる人の有無などによって変わります。


たとえば高齢の方で「既に信頼できる家族がいる」なら遺言で十分な場合もありますし、

「単身で、確実な管理を求めたい」場合は信託が安心です。

実際に書ける遺言文例(参考)

以下は実務で使える遺言文例の一例です。

「私は、愛犬『ポチ』の終生の飼養及び管理を○○(氏名)に委託し、当該飼養費として金300万円を同人に遺贈する。○○は毎年、飼養状況および費用の使用状況を遺言執行者に報告しなければならない。○○が飼養できない場合は、代替として△△(氏名)に飼養を委託する。」

このように、目的・金額・代替措置・監督方法を具体的に書くことがポイントです。


曖昧な表現にすると、遺言があっても実効性が弱くなってしまいます。


ペット信託の条項例

信託を使う場合、契約書には次のような条項を盛り込みます。

第1条(信託の目的)
委託者は、自己の財産のうち金500万円を受託者に信託し、受託者はこれを愛猫「ミケ」の終生の飼養及び医療費等に充てる目的で管理・支出する。

第2条(受託者の義務)
受託者は信託目的を誠実に遂行し、毎年その会計報告を信託監督人に提出する。

第3条(信託の終了)
ミケの死亡時に本信託を終了し、残余財産は□□に帰属するものとする。

このように書いておけば、明確な使途と監督体制が確保できます。


信託は専門的な手続きになりますが、

行政書士や司法書士と連携すれば設計可能です。

実務でのチェックポイント

ペットに関する法的手続きを考えるときは、次のチェックリストを意識しましょう。

  1. ペットの情報を整理しておく(名前・年齢・健康状態・マイクロチップ番号)
  2. 信頼できる世話人候補を複数確保する
  3. 世話にかかる費用を試算する(年額×残存寿命)
  4. 契約や遺言を文書で残す(できれば公正証書)
  5. 遺言執行者や信託監督人を選任する
  6. 代替措置(世話人が亡くなった場合など)を設定する

こうした準備をしておけば、飼い主の意思を確実に実現できます。

よくあるトラブルとその防止策

「ペットのために残したはずの財産が別の用途に使われてしまった」


「世話を頼んだ人が途中で放棄してしまった」


こうしたトラブルを防ぐには、監督者を置くことと、

報告義務を明記することが重要です。

また、遺族が「ペットにそんなにお金を使う必要はない」と反発するケースもあります。


このような場合、遺留分(法定相続人が最低限もらえる取り分)に配慮しつつ、

ペットのための費用を合理的に設定しておくことがポイントです。

まとめ:ペットを守るのは「今」の準備から

ペットは言葉を話せません。


飼い主が亡くなったあと、

自分で行き先を選ぶこともできません。


だからこそ、飼い主の意思を明確に形にすることが最大の愛情表現になります。

遺言、信託、契約――どの方法を選ぶにせよ、目的はただ一つです。


「自分がいなくなっても、愛するペットが幸せに暮らせるようにすること」。

そのためには、専門家と相談しながら、書面を整えておくことが大切です。


行政書士としては、遺言文案の作成支援、公正証書遺言の原案、

ペット信託契約の設計補助、委託契約書の作成支援など、実務面でお手伝いが可能です。

遺言書には何を書く?行政書士がわかりやすく解説する遺言書の内容と注意点

はじめに 相続のトラブルを防ぐために、近年では遺言書を作成する方が増えています。 しかし、 「遺言書には何を書けばいいのか分からない」 「財産以外のことも書けるの…

おわりに:一言コメント

飼い主の想いを形にするのは、

法律の知識だけではなく「共感」だと考えています。


ペットの命をつなぐ仕組みを整えることは、

飼い主自身の安心にもつながります。

「今すぐに遺言までは…」という方でも、まずはエンディングノートに


「ペットの名前・性格・好きな食べ物・かかりつけ病院・世話をお願いしたい人」


を書いておくだけでも、将来の助けになります。

あなたとペットの絆を、法的にも守れる形にしておきましょう。


その第一歩が「ペットに財産を遺す方法」を知ることなのです。