遺言書を書いたのに相続トラブルに!?「無効になる遺言書」の共通点と予防策

はじめに

「これで安心だ」と思って作成した遺言書が、

実際の相続時に「無効」とされてしまうケースは少なくありません。


せっかく遺言書を残しても、形式の不備や記載ミス、

意思能力の問題などで法的に効力を持たず、相続人同士が争う――。


そんな残念な結果を防ぐためには、

「無効になる遺言書の共通点」を理解し、

トラブルを予防する書き方と手続きを知っておくことが大切です。

この記事では無効になる遺言書の特徴と、今からできる予防策を詳しく解説します。

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なぜ遺言書が「無効」になるのか?

遺言は、故人の「最後の意思表示」であり、

法律的にも非常に重要な書面です。


そのため、民法では遺言書の方式や手続きに厳格なルールが定められています。

ルールに関することはこちらから↓

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たとえば、自筆証書遺言の場合は、

  • 本文を自書すること
  • 日付・署名・押印をすること
  • 訂正する場合は、訂正箇所を明示し、署名・押印をすること

といった細かい要件があります。


これらを一つでも欠けば、法的に「無効」になる可能性があります。

また、遺言書を作成した時点で、

本人に十分な判断能力(意思能力)がなかったと主張されるケースもあります。


重度の認知症や、薬の影響などで判断力が落ちていたと判断されると、

遺言そのものが無効になる恐れがあります。

つまり、遺言書の無効リスクは主に


①方式の不備、②意思能力の欠如、③内容の不明確さ、④証拠不足


の4つに集約されるのです。

無効になりやすい遺言書の共通点

では、どんな遺言書が実際にトラブルを招いているのでしょうか。


現場でよく見かける「無効・紛争を生みやすい」遺言書の特徴を挙げてみます。

1.日付・署名・押印が抜けている
 たとえば「令和◯年◯月」とだけ記載し、日が抜けていると無効です。

2.財産の特定が不十分
 「長男に家を遺す」と書かれても、不動産登記簿上の所在地や地番が異なると特定できず、解釈争いになります。

3.訂正方法の誤り
 金額や名前を修正した際に、訂正の方法(訂正箇所の明示・署名・押印)が不適切だと、その部分が無効に。

4.共同遺言を作成している
 夫婦連名で一つの遺言書を作るのは法律上できません。各自が別々に作成する必要があります。

5.意思能力が疑われる
 高齢や認知症で判断能力が低下していると、遺言無効の主張が出やすくなります。

6.証人の欠格(公正証書遺言の場合)
 受益者やその配偶者などが証人になると、手続きそのものが違法となる恐れがあります。

7.遺留分を無視した内容
 「すべてを長男に相続させる」とした結果、他の相続人から遺留分侵害請求が起き、紛争化する例もあります。

8.付言事項や意図が不明確
 なぜそのような分け方をしたのか理由が書かれていないと、誤解や不信感を招きます。

9.保管がずさん
 自宅の引き出しや金庫に保管したまま誰にも伝えず、遺言が見つからない、破棄された――というケースも。

10.更新されていない
 10年以上前の遺言で、既に売却した土地や閉鎖口座が書かれているなど、現状と不一致のまま放置されている。

典型的なトラブル事例

事例1:日付の欠落で無効に

80代の男性が自筆で遺言書を作成。

「令和3年5月」とだけ書かれており日付が不明。


家庭裁判所の判断では「日付不備により方式違反」とされ、無効となりました。


結果、相続は法定相続分での分割に戻り、長男と次男の間で紛争に。

事例2:意思能力の争い

入院中に遺言書を作成した女性。


ところが、当時は強い鎮静薬を服用しており、

医師の診断書もなかったため、相続人が「判断能力がなかった」と主張。


結果、家庭裁判所で無効と判断されました。

事例3:財産特定のミス

「自宅の土地を長男に遺贈する」と記載していたが

、実際は2筆に分かれた土地で、建物も別名義。


どの部分を遺すのか不明確で、登記移転手続が進まず紛争化。

無効を防ぐための5つの予防策

1. 公正証書遺言を選ぶ

最も安全なのは公正証書遺言です。


公証人が関与し、法的形式を満たして作成されるため、

無効リスクが極めて低く、検認手続きも不要です。


証人選定や内容確認も専門職に依頼すれば、安心感が高まります。

2. 意思能力を「証拠」で残す

作成時に医師の診断書を取得しておくと、後のトラブル防止に非常に有効です。


動画で本人が読み上げる様子を記録するのも有力な手段です。


「自分の意思で作成した」ことを客観的に示せれば、無効主張を防ぎやすくなります。

3. 財産の特定を徹底

不動産なら所在地・地番・家屋番号を、

預金なら銀行名・支店・口座番号まで具体的に記載。


「どの財産を誰に渡すのか」が明確であるほど、相続人同士の解釈違いが減ります。

4. 遺留分に配慮する

特定の相続人に偏った遺言内容は、後々の争いの原因になります。


「なぜそのように配分したのか」を付言事項で説明し、

他の相続人の理解を得ておくと効果的です。

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5. 定期的に見直す

財産内容や家族構成は年月とともに変わります。


3〜5年に一度、遺言内容を見直すことが大切です。


相続人の死亡、結婚、離婚、財産売却など大きな変化があれば、その都度修正を検討しましょう。

法務局保管制度の活用も有効

自筆証書遺言を選ぶ場合は、

法務局の遺言書保管制度を利用すると安全です。


保管証が発行され、家庭裁判所の検認も不要になります。


ただし、保管時に内容のチェックは行われないため、

形式要件の確認は専門家に相談するのがおすすめです。

遺言執行者を指定しておく

せっかく有効な遺言でも、

実行を担う人がいないとスムーズに手続きが進みません。


信頼できる第三者や行政書士を遺言執行者に指定しておくと、

相続手続きが確実に行われます。


銀行・不動産・税務関係など、

実務の中心となる人を事前に決めておくことで、家族の負担も軽くなります。

無効リスクを減らすためのチェックリスト

・日付・署名・押印はすべて記入されているか

・訂正は正しい方法で行っているか

・財産の特定は十分か

・遺留分への配慮がなされているか

・意思能力を裏づける証拠があるか

・遺言執行者を指定しているか

・保管方法・保管場所を家族に伝えているか

・3〜5年ごとに内容を見直しているか

よくある質問

Q:自筆でも財産目録をパソコンで作成できますか?
A:可能です。ただし、各ページに署名と押印を忘れずに行いましょう。

Q:公正証書遺言なら絶対に無効にならない?
A:形式上の安全性は高いですが、意思能力や証人の問題で争われることはあります。
医師意見書などの補強資料を残すことが望ましいです。

Q:夫婦で一通にまとめてもいい?
A:いいえ、共同遺言は無効です。夫婦それぞれが別の遺言書を作る必要があります。

まとめ:確実に想いを遺すために

遺言書は「書いたら終わり」ではありません。


法律の定める形式を守り、意思能力や財産の特定、遺留分の配慮など、

実務的に有効で争いにならない構成が重要です。

トラブルを避ける最も確実な方法は、

  • 公正証書遺言で作成すること
  • 専門家(行政書士・公証人)のチェックを受けること
  • 定期的に見直しを行うこと

遺言書は、あなたの想いを家族に確実に届けるための大切な手段です。


「無効だった」では済まされません。


大切な人のために、「正しい形で残す準備」を整えておきましょう。