不動産を複数所有している人の遺言書の書き方

目次
はじめに:不動産が複数ある人ほど「遺言書」は重要です
相続トラブルの多くは「不動産の分け方」が原因です。
特に、土地や建物を複数所有している方の場合、
「誰にどの物件を渡すのか」
「評価のバランスをどう取るのか」といった問題が複雑になり、
遺言書がないと家族間で揉めるリスクが非常に高くなります。
「兄が実家の土地を相続したけど、弟のほうが不公平に感じてしまった」
「複数の不動産をどう分けたらいいかわからない」
といった声をよく耳にします。
この記事では、不動産を複数所有している方のために
トラブルを防ぐ遺言書の書き方と注意点を、行政書士の視点から詳しく解説します。
なぜ「不動産の遺言書」は揉めやすいのか
1. 不動産は「分けにくい」資産
預金と違って、不動産は分けることができません。
土地や建物を複数人で共有すると、
売却や利用の際に全員の同意が必要になり、後のトラブルの火種になります。
特に兄弟姉妹で相続する場合、
- 「実家は兄が住み続ける」
- 「別の土地は弟に相続させる」
といった調整が必要になりますが、評価額が同等でないと「不公平」と感じるケースが多発します。
2. 評価額が人によって違う
不動産の価値は、立地・用途・思い入れによって人それぞれ感じ方が違います。
相続税評価額上は同じでも、
「実家」「収益物件」「農地」など、心理的価値はまったく異なります。
そのため、遺言書で公平感のある分け方を明示しておくことが、
家族円満のために欠かせません。
不動産が複数ある場合の遺言書の基本構成
1. 遺言書の形式を選ぶ
不動産を複数記載する場合は、形式の正確さが特に重要です。
おすすめは「公正証書遺言」です。
| 種類 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 費用がかからないが、書き方ミスが多い | 不動産が少ない人 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成、法的に安全 | 不動産が複数ある人 |
複数の土地・建物を正確に特定するには、
登記事項証明書(登記簿謄本)の内容に基づいて記載する必要があります。
誤字や地番の間違いがあると、
遺言が無効になったり、相続登記ができなくなるおそれがあります。
2. 遺言書の基本構成例
第○条 遺言者は、次の不動産を長男〇〇に相続させる。
所在地 福島県郡山市〇〇町〇丁目〇番地
地目 宅地
地積 200.00㎡
家屋の表示 木造瓦葺2階建 床面積120.00㎡
登記簿上の所有者 遺言者〇〇〇〇
第○条 遺言者は、次の不動産を長女〇〇に相続させる。
所在地 福島県郡山市〇〇町〇丁目〇番地
地目 田
地積 300.00㎡
このように、物件ごとに条文を分けて記載するのがポイントです。
複数不動産の分け方パターンと注意点
1.「現物分割」方式
それぞれの相続人に、個別の不動産をそのまま相続させる方法です。
メリット:
- 各相続人の権利関係が明確になる
- 共有を避けられる
デメリット:
- 評価額のバランス調整が難しい
- 不動産の数が少ないと平等に分けられない
例:
長男に自宅(評価2000万円)
次男にアパート(評価1500万円)
長女に現金500万円
このように現金や預貯金で差額を補うことで、全体のバランスを取ります。
2.「代償分割」方式
1人が複数の不動産を相続し、
他の相続人に対して代償金を支払う方法です。
例えば、長男が自宅と貸家を相続し、次男に対して500万円を支払うという形。
不動産の処分を避けたい場合に有効です。
注意点:
- 代償金の支払い原資を確保しておく
- 遺言書に「代償金の額・支払期限」を明記する
第○条 長男〇〇は、次男〇〇に対し、代償として金五百万円を支払うものとする。
3.「共有」方式(できるだけ避ける)
権利を持分という形で持ち合うことも可能です。
しかし「兄弟で半分ずつ」という共有相続はトラブルのもとです。
売却・賃貸・担保設定の際に全員の同意が必要となり、
将来の処分が困難になります。
やむを得ない場合でも、共有解消の方法を付言事項などで指示しておきましょう。
評価と公平性をどう保つか
1.不動産評価の方法
相続時に不動産の価値を把握するためには、以下の評価を参考にします。
| 評価方法 | 内容 | 利用場面 |
|---|---|---|
| 相続税評価額(路線価) | 国税庁の公表する路線価に基づく | 相続税申告 |
| 固定資産税評価額 | 市町村が算定 | 登録免許税算出 |
| 時価(実勢価格) | 実際の売買価格に近い | 不公平感の調整 |
複数の不動産を分けるときは、
相続税評価額ベースで全体を見える化しておくと、納得感を得やすくなります。
※不動産評価に関する記事は下記よりご覧いただくことができます
付言事項で「気持ち」も伝える
遺言書は単なる財産分配の書類ではありません。
特に家族が複数の不動産を引き継ぐ場合、
「なぜこの分け方にしたのか」を付言事項に書くことで、
争いを防ぐことができます。
例:
「長男には、これまで家業を支えてくれたことへの感謝を込めて自宅を相続させます。
長女には、実家の維持に協力してもらうため土地を託します。
家族全員が仲良く助け合っていくことを望みます。」
こうしたメッセージがあるだけで、相続人の納得感が大きく変わります。
遺言書作成の流れ(行政書士がサポートする場合)
1.財産一覧の作成
→ 不動産・預貯金・株式などをリスト化2.相続人関係図の作成
→ 誰が相続人かを明確に3.不動産の登記簿を確認
→ 地番・家屋番号・持分を正確に記載4.分け方案の検討
→ 現物・代償・共有などの方式を比較5.公証役場で公正証書遺言作成
→ 証人2名立会い、公証人が作成6.保管・更新
→ 財産や家族状況の変化に応じて定期的に見直す
遺言書作成時の注意点
1.不動産の特定を正確に
→ 「所在地」「地番」「家屋番号」を必ず登記簿通りに書く。2.名義人と登記内容を確認
→ 亡くなった配偶者名義のままになっていないか要注意。3.評価バランスを意識
→ 遺留分侵害にならないように調整。4.遺言執行者を指定
→ 相続登記をスムーズに進めるため、行政書士・司法書士を指定するのも有効。5.定期的な見直し
→ 売却・購入・贈与などの不動産変動に応じて修正。
まとめ:不動産が多い人ほど「計画的な遺言」を
複数の不動産を所有している場合、遺言書は単なる「財産の分け方」ではなく、
家族が将来安心して暮らせるようにするための設計図です。
ポイントは次の3つです。
- 不動産ごとに明確に指定する
- 評価のバランスを考慮する
- 付言事項で思いを伝える
そして、実際の作成は行政書士や公証人と一緒に行うことで、
法的にも感情的にも「争いを防ぐ遺言書」を実現できます。
おわりに:専門家に相談して家族の未来を守りましょう
不動産を多く持つことは、資産形成の成果であり誇りでもあります。
しかしその分、相続時のトラブルリスクも大きくなります。
遺言書を作ることで、あなたの想いを形にし、家族を守ることができます。
郡山市・福島県内での遺言書作成、公正証書遺言、農地を含む相続対策などは、
地域密着でサポートしている行政書士くろす綜合法務事務所へご相談ください。
不動産の数が多い人ほど、遺言書は「今」作るべきです。


