両親に遺言書を書いてもらうための上手な伝え方|角を立てずに「相続準備」を進める方法

目次
はじめに
高齢のご両親に「遺言書を書いてほしい」とお願いしたいけれど、
どう切り出せばいいのかわからない。
「財産を狙っていると思われないか…」
「縁起でもないと言われそう…」
そんな不安を抱える方はとても多いです。
しかし、遺言書は家族を守るための「思いやり」の書類。
トラブルを防ぎ、残された家族の負担を大きく軽減してくれる重要な手段です。
本記事では、行政書士として
両親に遺言書を書いてもらうための上手な伝え方をわかりやすく解説します。
なぜ両親に遺言書を書いてもらうべきなのか?
◆遺言書がないと、家族に大きな負担がかかる
多くの家庭では「うちは財産が少ないから大丈夫」と考えがちです。
しかし、相続トラブルの約75%は相続財産5000万円以下の一般家庭で発生しています。
理由は簡単です。
- 不動産の分け方で揉める
- 法定相続分と実際の貢献度が合わない
- 誰が何を相続するかで家族の感情が衝突する
- 手続きに必要な資料集め・名義変更が非常に大変
こうした問題は、遺言書があるだけで9割防げると言われています。
◆両親の希望を確実に反映できる唯一の方法
遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
しかし、価値観の違いや兄弟間の関係性によって意見がまとまらないことも多く、
親が望んでいた分け方を実現できないケースが後を絶ちません。
遺言書さえあれば、両親の意思をそのまま残せる
──これが最大のメリットです。
両親に遺言書を書いてもらうためのNGな言い方
まずは「絶対に使ってはいけない言い方」から説明します。
◆(1)「死んだら困るから書いて」
最も失敗するパターン。
本人が「縁起でもない!」と強く反発してしまい、話が進みません。
◆(2)「兄弟ともめるから書いて」
これも意図が正しく伝わらず、
「そんなに自分達の子どもを信用していないのか?」と思われる恐れがあります。
◆(3)「財産をどう分けるの?」とストレートに聞く
本人は「財産狙い?」と勘違いすることが多く、誤解の原因になります。
両親が聞いてくれる伝え方のコツ
ここでは、実際に相談現場で効果があった方法だけを紹介します。
◆(1)まずは「親の負担を減らしたい」という気持ちを伝える
遺言書の話は、財産よりも「安心」
「家族を守りたい気持ち」を軸に話すと通じやすいです。
例文:
「お父さんとお母さんに、これからも安心して暮らしてほしいから、
相続の準備を少しずつしておきたいんだ。」
これは、財産ではなく「家族の未来の話」になります。
◆(2)「自分が困る」ではなく「みんなが困る」を強調する
「自分が相続で困るから」だと誤解されやすいですが、
「兄弟みんなが困らないように」がポイント。
例文:
「財産の話じゃなくて、手続きが本当に大変だと聞くから、
皆で協力して準備しておきたいんだ。」
手続きの大変さを客観的に伝えるのは非常に有効です。
◆(3)身近な体験談・ニュースを使う
「知人の家で相続でもめて大変だった」
「不動産が共有名義でトラブルになった」など、
他人の事例は説得力があり、感情的な反発を起こしにくいです。
よく使う鉄板トークです。
◆(4)一度で話を完結させず、2〜3回に分ける
遺言書の話はデリケートなため、
一気に説明しようとすると失敗する可能性があります。
- 1回目:「相続の準備って結構大事らしいよ」
- 2回目:「遺言書があると手続きがラクになるんだって」
- 3回目:「行政書士にも相談できるらしいよ。話だけ聞いてみようか?」
このステップ方式が最も成功率が高いです。
実際に使える「遺言書を書いてもらうためのフレーズ集」
◆穏やかに切り出すとき
- 「もしもの時に、家族が困らないように、少し準備しておかない?」
- 「最近相続の話をよく耳にするから、うちも話だけでもしておこうと思って…。」
◆財産ではなく“手続きの負担”を理由にする
- 「相続の手続きって、戸籍集めたり不動産の書類そろえたり…すごく大変らしいよ。」
- 「遺言書があると、全部がスムーズにいくって行政書士さんに聞いたよ。」
◆第三者(専門家)の存在を使う
- 「専門家に軽く相談するだけでも安心だって聞いたよ。」
- 「行政書士さんが、今は遺言書を書く人がすごく増えてるって言ってたよ。」
専門家の意見を引き合いに出すと、親は冷静に聞きやすくなります。
遺言書について前向きになる「5つの心理ポイント」
遺言書作成を成功させる鍵は、両親の心理を理解することです。
◆(1)「家族に迷惑をかけたくない」という思いは強い
高齢になればなるほど、
「自分が亡くなった後の迷惑」を気にする方が増えます。
ここを上手く突くと、前向きに考えてくれます。
◆(2)「財産を取られる」とは実は思っていない
相談を聞いていると、
親が不安に感じているのは「財産を狙われている」のではなく
- 自分がまだ元気なのに終活扱いされる
- 老いを認めたくない
- 自分の意思を尊重してもらえるか不安
この心理がほとんどです。
◆(3)選択肢があると安心する
「遺言書を書いて」と命令型に言われると反発しますが、
- 「公正証書遺言という方法もあるらしいよ」
- 「エンディングノートを最初に書くのも良いみたいだよ」
など、選択肢を提示すると受け入れやすくなります。
◆(4)文書が苦手だと拒否感が強い
特に男性に多い傾向ですが、
「文章を書くのが苦手だから嫌だ」と思う方も少なくありません。
その場合は、
- 「行政書士がサポートしてくれるので大丈夫」
- 「話を聞くだけで作ってもらえるよ」
と伝えると安心してくれます。
◆(5)「家族が仲良くしてほしい」という願望は強い
多くの方は亡くなった後に家族が揉めることをもっとも嫌います。
これを真摯に伝えると、理解が深まります。
実際の遺言書の種類と、両親にどう説明すべきか
ここでは、伝え方の軸となる「遺言書の種類」を簡単に解説します。
説明方法を知っておくと話が通りやすくなります。
◆(1)自筆証書遺言
- 公証役場不要
- 費用0円
- 保管制度を使えば法務局で保管できる(有料)
- 最大の弱点:形式不備による無効化
両親への説明ポイント:
「タダで作れるけど、書き方を間違えると無効になるんだって。専門家にチェックしてもらうのも良いみたいだよ。」
◆(2)公正証書遺言
- 公証役場で作成
- 法的トラブルになりにくい
- 紛失の心配もゼロ
- 最も安全な遺言書
両親への説明ポイント:
「公証役場で作ってもらえるから、書き間違いがなくて安心なんだよ。多くの方が公正証書遺言にしているらしいよ。」
遺言書を書いてもらうまで
最もスムーズに進める流れを紹介します。
◆ステップ1:日常会話で軽く触れる
相続やニュースの話題を使って、まずは軽く触れておきます。
◆ステップ2:手続きの大変さを共有する
戸籍集め・不動産調査・銀行手続きなど、
あなた自身が大変になる姿を見せるのではなく
「家族全体の負担が大きい」というニュアンスで伝えます。
◆ステップ3:遺言書のメリットを説明する
- 手続きが楽
- 兄弟が揉めない
- 親の意思が確実に残る
この3つが鉄板です。
◆ステップ4:行政書士の同席で話をする(最も効果的)
両親は、第三者の意見には素直に耳を傾ける傾向が強いです。
「相談だけでもしてみようか?」
この一言が大きな転機になります。
行政書士に依頼するメリット
◆メリット1:法律的に正確な遺言書を作れる
文言の誤りや記載漏れで無効になる例は多く、
行政書士が内容のチェックを行うことで、
確実な遺言書が作成できます。
◆メリット2:家族が意見を言いにくい部分を“代弁”できる
当事者だと話しづらいテーマでも、
行政書士が間に入ることでスムーズに話が進みます。
◆メリット3:不動産や相続人調査もまとめて依頼できる
不動産相続が絡むケースが非常に多いため、
専門家が一括で調査すると安心です。
◆メリット4:遺言執行者も引き受けられる(※取り扱い可能か要確認)
作った遺言を確実に実行する存在として、
行政書士を遺言執行者に指定する方法もあります。
まとめ
両親に遺言書を書いてほしいと思うのは、
決して財産目的ではありません。
- 家族を守りたい
- 手続きの負担を減らしたい
- 兄弟が揉めずに仲良くしてほしい
これらはすべて「優しさ」から生まれる願いです。
遺言書は、
ご両親から家族への最後のプレゼントであり、思いやりそのものです。
切り出し方さえ間違えなければ、
多くの親御さんが前向きに考えてくれます。
本記事が、あなたのご家族の未来を守るきっかけとなれば幸いです。

