遺言書が必要なのはなぜ?そもそもいる?いらない?

はじめに
遺言書はそもそもいらないのではないか?
そのように考えたことはありませんか。
確かに民法第900条に「法定相続分」の記載があり、
何もしなくても相続人に決められた割合で相続することは可能です。
基本的な流れとして相続が発生し、
遺言書が無い場合は相続人全員による遺産分割協議を行い、
遺産分割協議書の作成が終わったら、
相続登記や各種名義変更(銀行の払い戻し、自動車等)を行うのが流れです。
遺言書があれば、遺産分割協議を行う必要はなく、
遺言書の記載通りに遺言執行者が各種手続きを取ります。
相続登記をする際に、
遺産分割協議書・遺言書は必要になりますのでこの流れはマストとなります。
ではトラブルになるとはどのようなパターンが存在するのでしょうか。
それは「不動産」がキーワードになってきます。
共有不動産は大変。なんとしても共有は避けたい
相続が発生し、法定相続分で遺産を分ける場合、
お金であれば具体的に「預貯金のうち○○円」と分けやすいのですが、
不動産は物理的に分けられません。
この場合どうするのか?
この答えは共有持分として、各相続人が権利を持ちます。
権利3分の1とか2分の1とか、これは法定相続分の割合で決まるのですが、
あくまで権利であり、自宅の3分の1は自分の部屋、
隣の部屋は別の相続人の物という話ではありません。
共有不動産については基本的にすべて利用はできます。
不動産の共有については民法第249条~第252条に記載があります。
□ 不動産の「共有」とは(民法第249条)
民法第249条
数人が所有権その他の財産権を共有する場合においては、その権利は、各共有者がその持分に応じて有するものとする。✔ 簡単にいうと…
- 各共有者が自分の持分割合に応じて権利を持っている。
- 例えば、2人で1/2ずつ持っていれば、それぞれが半分の権利を持つ。
□ 民法第251条(共有物の変更)
共有物の変更は、共有者全員の同意によって、これをすることができる。
□ 民法第252条(共有物の管理)
共有物の管理に関する事項は、共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
ただし、これに反する契約があるときは、その契約に従う。
🔸 共有におけるルール
行為の種類 必要な同意の範囲 関連条文 内容 保存行為(修理・管理など) 単独で可能 民法252条 建物の修繕、固定資産税の支払いなど 利用・変更行為(賃貸・利用方法の変更) 持分の過半数 民法252条 共有不動産を貸す、駐車場にするなど 重要変更・処分(売却・建替え・分割) 全員の同意 民法251条 売る、建て替える、登記名義を移すなど
✅ 保存行為の定義
- 保存行為とは: 共有物の現状維持または損傷の防止など、物の価値を減らさないために必要な最小限の行為。
- 財産の性質や内容を変更しない
- 緊急性・必要性があるケースが多い
- 他の共有者の同意がなくても、単独で実行可能
✅ 保存行為の具体例
行為 保存行為になるか 解説 建物の修繕(雨漏り修理など) ✅ 放置すれば損傷が進むため シロアリ駆除 ✅ 建物の維持管理に必要 境界標の設置 ✅ 境界紛争を防ぐ目的で現状維持 固定資産税の支払い ✅ 財産の維持に必要な義務 火災保険への加入 ✅ 資産保全のため(単独契約が可能) 管理会社に業務委託 ❌ 管理行為 内容によるが、通常は過半数の同意が必要 建替え・増築 ❌ 変更行為 性質を変更するので全員一致が必要(民法251条)
上記の内容を確認するとわかるのですが、
売却したいと思っても共有者全員の同意がないと売れません。
これは大変な問題であります。
なぜなら戸建てであれば毎年の固定資産税の支払いがあり、
マンションであれば固定資産税のほかに管理・修繕積立金の費用も発生します。
しかし共有者のひとりが「売りたくない」となったら、売却はできなくなります。
所有権移転をする際は司法書士の先生にて共有者全員の売却の意向を確認しますので、
勝手に権利を移転することもできません。
賃貸に出して収益を得たいと考えたとしても、
「利用行為」にあたるため共有者の過半数の同意が必要です。
上記の保存行為にあたるものは自由にそれぞれの共有者の判断で実施可能ですが、
保存行為以外は共有者の同意を得る必要があるため、一度でもやり取りに難があると、
以後同じように各々調整を図る必要がありストレスになりますので、
不動産の共有名義は避けるべきです。
遺言があると問題は解決できる!
遺言書は「自分の意思を伝える」ほか、
「相続トラブルを防ぐ意味」で大変大きな効果をもたらします。
不動産の例では「自宅は長男に相続させる」という文言があるだけで、
自宅の名義は共有名義にならず長男の名義になります。
遺言が必要とされる主な理由についてまとめていますのでまずは下記内容を参照ください。
✅ 遺言書が必要な主な理由
1. 自分の意思を法的に残せる
遺言書があれば、自分が亡くなった後に、財産を「誰に」「どのように」渡すかを明確に指定できます。
例:
- 長男には自宅を相続させる
- 内縁の妻に預金の一部を渡す
- 特定の孫に教育資金として現金を遺す
→ 遺言がなければ法定相続通りになり、自分の希望が反映されることはありません。
2. 相続トラブルを防げる
相続はお金の問題であるため、兄弟姉妹・親戚間で争いになることが多いです。
- 誰がどれだけもらうかで揉める
- 遺産分割協議がまとまらず、裁判沙汰になる
- 仲の良かった家族が絶縁状態に…
→遺言書で分け方を指定しておけば、争いを未然に防げます。
3. 法定相続ではカバーできないケースに対応できる
遺言がないと、基本は法定相続人(配偶者、子、親など)に平等に分けられます。
しかし、
- 子どもがいない
- 内縁関係にある人がいる
- 特定の人にだけ財産を残したい
- 会社や事業を継がせたい
→こうした内容の場合、遺言がないと自分の希望通りにならない可能性が高いです。
4. 特定の人に遺産を残せる
たとえば…
- 介護してくれた娘に多めに渡す
- 遺族ではない友人や団体(NPOなど)に寄付したい
- 相続人でない人に財産を残したい(内縁の配偶者、養子縁組してない子など)
→ 遺言書がないと、相続人以外には一切渡せません。
おわりに
今回のテーマの回答としては遺言は必須です。
ここまで読めば遺言が必要とされる理由について理解いただけたのではないでしょうか。
例えば父親が無くなった場合は、母親が相続されるためこの段階では問題視されませんが、
親が無くなり「子」が相続されるパターンで今まで良好な関係であった場合でも揉めるケースがあります。
こうした事態に備えて、親の義務として遺言をしっかり残していくことが重要であると私は思います。
一度書いた遺言でも、新しい遺言を書けば自然と撤回されたものとみなし(民法第1022条)、
遺言を書いた後に預貯金を使用しても効力が発生しない(民法第1024条)だけですのでご安心ください。
最後に条文と相続する予定だった財産を処分した場合の具体例を挙げて本テーマは終わりにしたいと思います。
□ 民法 第1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
□ 民法 第1024条(遺言と抵触する行為)
遺言者が遺言の後にその遺言の内容と抵触する行為をしたときは、その抵触する部分については、これを撤回したものとみなす。
💡 具体例:
例:
- 遺言:「長男に自宅を相続させる」
- その後:自宅を第三者に売却した
→ 自宅についての遺言は「撤回された」とみなされる(もう存在しないため)。