法人でも農地は取得できる?行政書士が解説|条件・手続き・注意点

はじめに

農地は、一般の不動産と違い、

自由に取得することができません。


近年、太陽光発電事業・相続対策・企業の農業参入などにより、

法人が農地を取得したいというケースが増えております。

しかし実際には、農地の取得には厳しい制限があり、

個人よりも法人の方が審査が厳しくなるのが現状です。

では、法人が農地を取得することは本当に可能なのでしょうか。


結論から言うと、法人が農地を取得できるケースは確かに存在します。

しかし、取得できる法人は「ごく限定的」であり、

一般法人が自由に農地を買うことは、法律上ほぼ不可能です。

本記事では、

法人が農地を取得できる条件、注意点、実際の手続きの流れまで詳しく解説します。

これから農業参入や太陽光事業を検討している法人、

また相続や事業承継で農地の取扱いに悩んでいる経営者の方にとって必見の内容です。

法人でも農地の取得は可能だが、条件は極めて厳しい

まず最初に結論を整理すると、

法人でも農地を取得できるが、その条件は非常に厳しいということです。

農地を取得できる法人は、主に以下の2つに限定されています。

  1. 農地所有適格法人(旧・農業生産法人)として取得する場合
  2. 農地法3条の例外規定に該当する法人である場合

このいずれかに該当しない限り、

一般の株式会社や合同会社が農地を自由に購入することはできません。

なぜこれほど厳しいのかというと、

農地法は「農地を農家が耕すためのもの」と定め、

投機的な売買や過度な企業参入を防止する目的があるためです。

農地は国の食料供給を支える根幹であり、

不動産のように自由に売買されることは許されていません。

農地法の基本|なぜ農地は自由に売買できないのか

農地が特別な扱いを受ける理由は、農地法の目的にあります。


農地法は次のような理念を掲げています。

  • 農地は農業者が利用するためのもの
  • 投資の対象にすることを防ぐ
  • 優良農地の減少を防止し、食料供給を安定させる

このため、農地の売買・贈与・賃貸借・相続以外の承継など、

あらゆる形態の移転について、農業委員会の「農地法3条許可」が必要になります。

さらに法人の場合、個人よりも厳しい審査が行われます。


「本当に農業をするのか?」「継続性はあるのか?」といった点を確認するため、

事業内容、役員構成、出資割合、農業従事日数まで細かくチェックされます。

農地は国の資源であるため、

企業活動よりも「農地保護」が優先されているのが特徴です。

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法人が農地を取得できる2つのパターン

法人が農地を取得できるケースは次の2つのみです。


① 農地所有適格法人として取得する場合

農地所有適格法人とは、


「農地を所有して農業を継続的に行うことができる法人」のことです。

名称が「農業生産法人」から変更されたのは平成28年ですが、

求められる内容は同じです。

農業を主たる事業とし、継続して農業に取り組む意思と能力を証明しなければなりません。


② 農地法3条の例外規定に該当する場合

たとえば以下の法人は例外として取得が認められます。

  • 農協(JA)
  • 土地改良区
  • 国・自治体
  • 学校法人
  • 特定の公益法人

しかし、一般の株式会社・合同会社がこれらに該当することはほとんどありません。


そのため事実上、

「法人が農地を取得する=農地所有適格法人を目指す」ことになります。

農地所有適格法人とは何か

農地所有適格法人とは、

農地を耕作するために設立された法人であり、農業を主な事業として取り組む法人

のことです。

単に「法人が農業をやる」というレベルでは許可されません。


事業内容・役員構成・出資比率など、

法律で細かく定められた要件を満たしていなければなりません。

農地所有適格法人の4つの要件

農地所有適格法人として農地を取得するには、

次の4つの要件すべてを満たす必要があります。


① 事業内容要件(主たる事業が農業であること)

法人の「主たる事業」が農業でなければ許可されません。

● 許可される例

  • 米・野菜・果樹などの生産
  • 畜産業
  • 農産物の加工(付随事業)
  • 農業サービス(農作業受託など)

● 許可されない例

  • 不動産賃貸がメインの法人
  • 太陽光発電がメインの法人
  • 飲食業・製造業がメイン

あくまで農業が中核である必要があります。


② 議決権要件(農業関係者が50%超)

出資者のうち、「農業従事者」や「農家」が議決権の過半数(50%超)を持っている必要があります。
投資会社や外部資本が過半数を握るような法人は農業参入できません。


③ 役員要件(役員の過半数が農作業に従事)

役員の半数以上が「農作業に常時従事していること」が条件です。
役員が名目だけのケースや、農業経験ゼロの場合は許可が難しくなります。


④ 労働日数要件(年間150日以上)

役員または従業員が、
年間150日以上農業に従事する実体が必要です。

単なる形式だけの農業法人では許可されません。


実際に農業に取り組んでいる客観的な証拠が必要となります。

一般法人が農地を取得できない理由

一般の株式会社・合同会社が農地を取得できない理由としては、主に以下が挙げられます。

  • 農業を行う実体がない
  • 農地を投資対象にする恐れがある
  • 転売や宅地化を目的としているケースがある
  • 継続的な農業従事が期待できない

とくに太陽光発電目的は全国的に厳しく審査されており、


農業委員会は「農業をする気がない法人」として、不許可とすることがほとんどです。

そのため、一般法人が農地を利用したい場合は

先に農地転用を行い、宅地または雑種地へ地目変更してから取得する

という流れになります。

農地取得の際の審査項目と許可の流れ

法人が農地を取得する際の審査は、以下のような流れで進みます。


【1】農業委員会への事前相談

最も重要なステップです。
農地所有適格法人としての条件に合致しているか、事前チェックを行います。


【2】申請書類提出

提出書類の例

  • 定款
  • 農業従事証明
  • 役員構成表
  • 出資比率表
  • 農業計画書
  • 作付計画書
  • 法人の登記事項証明書

【3】現地調査

農業委員会の担当者が現地を確認し、

  • 本当に耕作できる土地か
  • 既存の施設状況はどうか
  • 周辺土地との関係

などをチェックします。


【4】農業委員会総会→審議

書類と現地情報を基に「許可・不許可」が決定されます。


【5】許可証の交付

許可がおりれば、農地の売買契約・所有権移転が可能になります。

不許可になる典型的なパターン

法人による農地取得は、不許可になるケースが非常に多いです。


実務でよく見られるのは、次のようなケースです。

  • ペーパーカンパニー
  • 農業実績が全くない
  • 農業に従事する人員が不足
  • 出資制限に違反している
  • 太陽光発電目的
  • 農業収入よりも他事業の収入が大きい
  • 実態が不明確である

これらに該当する場合、許可はまずおりません。


農地法の審査は「形式だけ整えればよい」というものではなく、


実体が非常に重視されます。

太陽光発電のために農地を取得できるか?

よくある質問ですが、結論は明確です。

❌ 農地を太陽光発電のために「取得」することは原則できない

⭕ ただし、農地転用許可を得た後なら取得可能

営農型太陽光(ソーラーシェアリング)であっても、

  • 農地転用許可(5年〜10年の一時転用)
  • 営農計画書の提出
  • 周辺農地への影響の確認

が必要になります。

また、農地転用の審査は年々厳しくなっており、


単に「太陽光をしたい」という目的だけでは通りません。

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M&Aや相続で法人が農地を引き継ぐ場合

相続や会社のM&Aによって、法人が農地を保有するケースがあります。


しかしその場合でも、農地法の許可は必要です。

さらに、農地所有適格法人の要件を満たせなくなった場合、


所有権を強制的に失う可能性もあります。

そのため、法人が農地を承継した場合は、

  • 要件を維持できているかのチェック
  • 定款変更
  • 役員構成の調整
  • 農業従事者の確保

などが必要になります。

行政書士に依頼するメリット

農地法の手続きは、

許可されるかどうかの判断が極めて難しい分野です。


法人が農地を取得する場合、

行政書士に依頼するメリットは大きく次の通りです。

  • 事前の要件チェックができる
  • 不許可リスクを回避できる
  • 農業委員会との事前調整を代行できる
  • 通過しやすい書類作成ができる
  • 農業計画・作付計画を実務ベースで作成できる

特に法人の農地取得では、書類の精度や計画の現実性が極めて重要です。

まとめ

法人であっても農地の取得は可能です。

しかし、その条件は非常に厳しく、一般法人が自由に購入することはできません。

法人が農地を取得するためには「農地所有適格法人」であることが基本であり、

事業内容・役員構成・出資比率など複数の要件を満たす必要があります。

太陽光目的で農地を取得することは原則として不可能であり、

どうしても利用する場合は農地転用許可が必須です。

農地を取得したい法人は、

まず農業委員会への事前相談を行い、

自社が条件に合致しているのか慎重に判断する必要があります。

なお本件に関する記事は、

自治体によって要件・必要書類などが異なる場合がありますので、

参考までにお願いします。