正解はどっち!?自筆証書遺言と公正証書遺言はどちらで書くべきか

はじめに

令和2年7月10日から法務局による自筆証書遺言の保管制度がはじまり、まもなく5年が経過します。

前回のテーマで自筆証書遺言の保管制度についての記事を書きましたが、

実際のところはまだ公正証書遺言で作成される方が多いかと思います。

今回のテーマは自筆証書遺言と公正証書遺言の各特徴を踏まえたうえで、

どちらを選択するべきかについて解説します。

まず前提として、遺言書は遺産分割協議書と異なり法律で形式が厳格に定められており、

形式通りでないと無効になる可能性があることが特徴として挙げられます。

では、まず自筆証書遺言からみていきます。

自筆証書遺言について

さっそく該当する法律の条文を確認していきます。

【民法第968条(自筆証書遺言)】

  1. 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
  2. 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む)の全部又は一部の目録を添付するときは、その目録については、自書することを要しない。
    • この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(若しくは毎頁)に署名し、印を押さなければならない。
  3. 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

▶ 2020年改正

  • 目録の自書不要化(第2項):不動産登記簿・通帳写し等の添付が可能に
  • 法務局保管制度の創設(民法第968条の2):遺言書を法務局で保管可能

【関連条文と実務上の要件】

要件裁判所の判断
全文自書・パソコン作成は無効(最判平成29.9.4)
・「自書」=手書きのみ
日付・「令和5年8月吉日」→無効(最判昭和38.4.30)
年月日が特定可能な記載が必要
署名押印・拇印でも可(最判昭和32.7.19)
・印鑑の種類は不問(実印不要)

大切なところはマーカーをつけました。

大変なところは全文自書であることです。

訂正があった場合は、加筆訂正もできますが実務上やり直しするようにご案内しています。

全文自書の場合でも書き方が変な場合も遺言の効力が無効となる場合があります。

例えば、「長男にすべての財産を相続させる。ただし、次男にも配慮すること」といった曖昧な表現の場合です。

次に自筆証書遺言の良いところ悪いところをピックアップします。

◎自筆証書遺言の良いところ(メリット)

  1. 費用がかからない
    • 自分で紙とペンを用意して書けば、基本的にお金がかかりません→最大のメリット
    • 公正証書遺言のように、公証人の費用が不要です。
  2. 手軽に作成できる
    • 法律の要件を守れば、いつでもどこでも自分ひとりで作成可能です。
    • 突然の病気や災害などの緊急時にも対応しやすいです。
  3. 内容を秘密にできる
    • 完全に自分で保管すれば、他人に内容を知られずに済みます
    • 相続人や家族に知られたくないことも書きやすいです。
  4. 自由に書き直せる
    • 自分で簡単に新しい遺言を作れるので、ライフスタイルや財産の変化に柔軟に対応可能です。
  5. 法務局で保管できる(2020年7月以降)
    • 希望すれば法務局に預ける制度(自筆証書遺言保管制度)も利用可能。
    • 紛失・偽造のリスクを防ぎ、家庭裁判所での「検認」も不要になるメリットがあります。

×自筆証書遺言のデメリット

1. 形式不備による「無効」のリスクが高い

  • 自分で書くため、法律で定められた形式要件を満たさないと無効になります。→一番のデメリット
  • 例:日付がない、署名・押印がない、代筆したなど。

2. 内容の不備で「争いのもと」になることがある

  • 書き方や表現があいまいだと、相続人同士で解釈が分かれて争いの原因になります。
    • 例:「家は長男に譲る」←どの家?どの登記簿の土地?

3. 紛失・改ざん・隠ぺいのリスク

  • 家庭内で保管する場合、相続人が勝手に破棄・書き換えたり隠す可能性があります。
  • 相続人全員が知らずに、存在すら分からなくなることも。

4. 家庭裁判所で「検認」が必要

  • 法務局に保管していない自筆証書遺言は、相続の際に家庭裁判所での「検認手続き」が必須
    • この手続きには数週間~数ヶ月かかることもあり、すぐに相続できません。

5. 専門家のチェックがないため法的に不完全な可能性

  • 自分で書くため、相続税や遺留分への配慮が足りないことが多いです。
  • 結果として、他の相続人の権利を侵害してしまうリスクも。

6. 遺言執行者の指定がないと、実行が面倒

  • 誰が遺言内容を実行するのかが書かれていないと、相続人全員の協議が必要になります。

7. 精神状態や本人性のトラブルになりやすい

  • 作成時の精神状態や本人の意思について、後で「認知症だったのでは?」などと争われやすい

上記の記載をまとめると最大のメリットは「安い、手軽」、

デメリットは「無効になるリスク」があるということです。

ではこちらを踏まえて公正証書遺言をみていきます。

公正証書遺言について

まず該当する法律の条文を確認していきます。

【民法 第969条(公正証書遺言)】

第九百六十九条
遺言は、公証人が、証人二人以上の立会いのもとに、次に定める方式によりこれをしなければならない。
一 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
二 公証人が、その趣旨を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
三 遺言者及び証人が、その筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名押印すること。
四 公証人が、その証書がこの法律に定める方式に従って作成されたものである旨を付記して、これに署名押印すること。


【ポイント解説】

  • 「口授」とは、遺言者が公証人に口頭で遺言内容を伝えることです。
  • 遺言者が自ら書いたり、録音や録画による伝達は認められません。
  • 公証人が内容を筆記し、それを遺言者と証人に確認してもらう必要があります。
  • 証人は**利害関係のない成人(かつ法律上制限のある者ではない)**である必要があります。

公正証書遺言は自筆証書遺言と異なり、公証人が文書を作成します。

ネックなことは証人二人以上立ち合いが必要なことです。

当事務所においての対応としては、

私と公証役場から証人一人を手配いただき対応を取るような体制を取っております。

では公正証書遺言の良いところ悪いところをみていきます。

◎公正証書遺言の良いところ

  1. 法的に最も安全性が高い
    • 公証人が関与し、民法に定められた方式で作成されるため、無効になるリスクが極めて低いです。→これが最大のメリット
    • 内容が不明確だったり要件不備で無効になることを避けられます。
  2. 家庭裁判所の検認が不要
    • 自筆証書遺言とは違い、相続開始後すぐに執行できるため、手続きがスムーズです。
  3. 紛失・改ざん・隠匿の心配がない
    • 公正証書は原本が公証役場に保管されるため、相続人が見つけられない・破棄される・改ざんされるといった心配がありません。
  4. 文字が書けなくても作成可能
    • 口頭で内容を伝えられれば作成可能なので、高齢や病気で手が不自由な人でも作れます。
  5. 専門家によるチェックが入る
    • 公証人(法律のプロ)が内容を確認するため、法的に問題のない内容に整えてもらえる
  6. 遺言執行者の指定も可能
    • 専門家や信頼できる人を「遺言執行者」として指定しておけば、確実に内容が実現されやすいです。

× 公正証書遺言の主なデメリット


1. 費用がかかる

  • 遺言内容や財産額に応じて、公証人手数料が発生します。※手数料については下記記載あり

2. 作成の手続きがやや面倒

  • 公証役場に事前相談・書類提出・打ち合わせが必要です。
  • 財産の資料(不動産登記簿、預金通帳のコピーなど)や身分証明書の用意も必要。
  • 証人2名の立ち会いも必要で、秘密性がやや低くなる可能性も。

3. 証人の確保が必要

  • 法律上、以下のような人は証人になれません:
    • 未成年者
    • 推定相続人・その配偶者・直系血族
    • 公証人の配偶者や親族など
  • 身内に頼めない場合、専門家(司法書士・行政書士など)に依頼し報酬を払うことになります。

4. 内容の変更にも手間がかかる

  • 一度作成した公正証書遺言を変更・撤回するには、再度公証人の手続きを踏む必要があります
  • 自筆証書遺言のように、手軽に書き換えることはできません。

5. 形式的なハードルがある(口授が必要)

  • 遺言者が口頭で公証人に「口授」しなければなりません。
  • 意識がはっきりしていない人や、話すことが困難な場合には作成できないことがあります。

公正証書遺言を作成する際の公証人の手数料は、「公証人手数料令」という政令に基づいて計算されます。

手数料は、遺言に記載する財産の価額に応じて加算される仕組みです。


公正証書遺言の公証人手数料(目安)

■ 財産の価額に応じた手数料表(遺言1通あたり)

財産の価額手数料(税込)
100万円以下5,000円
200万円以下7,000円
500万円以下11,000円
1,000万円以下17,000円
3,000万円以下23,000円
5,000万円以下29,000円
1億円以下43,000円
3億円以下43,000円 + 超過額の0.1%
3億円超65,000円 + 超過額の0.04%

1人に対して特定財産を遺贈する場合、それぞれの財産の評価額で個別に手数料が加算されます。


🧾 その他にかかる費用(必要に応じて)

項目費用の目安
証人2名の謝礼(依頼した場合)1人あたり5,000円〜10,000円
出張費(病院・自宅で作成する場合)実費 + 日当(公証人手数料令による)
登記簿謄本・住民票などの取得費用数百円〜

公証人の手数料に関して、詳細は下記URLより確認ができます。

https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02/2-q13

公正証書遺言についてまとめると最大のメリットは「確実に遺言の実行ができる」、

デメリットは「お金がかかる」です。

結論

今までを踏まえて、どちらが良いのか回答しますと、

公正証書遺言がベストであると私は思います。

なぜなら遺言で大切なことは、

「確実にその内容を実行すること」だからです。

多少費用はかかりますが、

上記の自筆証書遺言と公正証書遺言のメリットを比較しても公正証書遺言のメリットの方がプラスであると思っています。

もし自筆証書遺言を作成する場合は、せっかく書いた遺言が無効にならないよう、

必ず専門家に見てもらいながらの作成しましょう!