【相続トラブルになりやすい10のパターン】争族を防ぐために生前からできる対策

目次
はじめに
相続は、財産の多い家庭だけに起こる問題ではありません。
「うちには大した財産がないから、相続でもめることはないだろう」
そう考えている方も少なくありませんが、
実際には、自宅や預貯金など身近な財産をめぐって、
家族同士の話し合いがまとまらなくなるケースがあります。
令和7年の司法統計によると、
家庭裁判所で認容または調停成立となった遺産分割事件8,321件のうち、
遺産額1,000万円以下の事件は2,938件、
1,000万円を超え5,000万円以下の事件は3,519件でした。
合計すると、遺産額5,000万円以下の事件が全体の約77.6%を占めています。
つまり、相続トラブルは一部の富裕層だけの問題ではなく、
一般的な家庭でも十分に起こり得る問題です。
本記事では、相続トラブルになることが予想される代表的なパターンと、
トラブルを防ぐために
生前から準備しておきたい対策について解説します。
相続トラブルはなぜ起こるのか
相続トラブルというと、
相続人同士が財産を奪い合う場面を想像するかもしれません。
しかし、
実際には単純な金銭欲だけが原因とは限りません。
相続では、これまでの家族関係、親の介護への貢献、
過去の援助、兄弟姉妹間の不公平感など、
長年積み重なってきた感情が一気に表面化することがあります。
例えば、長男が親と同居して介護をしていた一方で、
次男は実家を離れて生活していたとします。
長男は「自分が親の面倒を見てきたのだから、
自宅を相続するのは当然だ」と考えるかもしれません。
一方、
次男は「介護をしていたとしても、相続分は兄弟で平等なはずだ」と
考える可能性があります。
どちらにも、
それぞれの立場から見た理由があります。
相続トラブルを防ぐためには、
法律上の相続分を確認するだけでなく、
相続人それぞれがどのような感情を持つ可能性があるかまで
考えておく必要があります。
パターン1 遺産のほとんどが不動産である
相続トラブルになりやすい代表的なパターンが、
遺産の大部分を自宅や土地などの不動産が占めているケースです。
現金や預貯金であれば、
相続分に応じて比較的分けやすいでしょう。
しかし、
不動産は簡単に切り分けることができません。
例えば、相続人が長男と次男の2人で、
主な相続財産が評価額2,000万円の実家と、
預貯金200万円だけだったとします。
長男が実家を相続する場合、
単純に法定相続分で考えると、
次男にも1,100万円相当の財産を取得する権利があります。
ところが、預貯金は200万円しかありません。
長男が不足分を自分の財産から支払う方法を「代償分割」といいますが、
長男に十分な資金がなければ実現できません。
その結果、次のような対立が起こります。
長男は「実家に住み続けたい」と主張し、
次男は「売却して現金で分けたい」と主張するケースです。
不動産については、
相続人間で評価額の見方が異なることもあります。
固定資産税評価額、相続税評価額、不動産会社の査定価格、
実際の売却価格は、それぞれ異なる場合があります。
そのため、「実家はいくらの価値があるのか」という段階から
意見が対立することも珍しくありません。
不動産が主な財産である場合には、生前に売却するのか、誰に承継させるのか、
代償金をどのように準備するのかを
検討しておくことが重要です。
パターン2 相続人の一人が被相続人と同居している
親と同居している子がいる場合も、
相続トラブルが起こりやすくなります。
同居している子は、親の身の回りの世話、通院の付き添い、
買い物、家事、介護などを日常的に行っていることがあります。
そのため、
本人としては「自分は他の兄弟姉妹よりも親に貢献してきた」と考えるのが自然です。
一方、別居している兄弟姉妹から見ると、
同居していた子には住居費や生活費などの面で
利益があったように見えることがあります。
「親の面倒を見ていた」という主張と、
「実家に無償で住んでいた」という主張がぶつかる可能性があります。
相続法には、被相続人の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人について、
その貢献を遺産分割に反映させる「寄与分」という制度があります。
ただし、親子間で通常期待される程度の介護や家事を行っただけでは、
必ずしも寄与分が認められるとは限りません。
介護への貢献を相続に反映させたい場合には、介護内容、期間、
支出した費用、仕事を休んだ記録などを残しておくことが大切です。
被相続人本人が、
介護をしてくれた子に多く財産を残したいと考えているのであれば、
口約束で済ませず、
遺言書などで意思を明確にしておく必要があります。
パターン3 特定の子だけが生前贈与を受けている
子どもの一人だけが、
被相続人から多額の援助を受けている場合も注意が必要です。
例えば、次のような援助が考えられます。
住宅購入資金、事業資金、結婚資金、留学費用、多額の生活費などです。
このような贈与が「特別受益」に該当する場合、
相続人間の公平を図るため、
遺産分割の際に考慮される可能性があります。
問題になりやすいのは、贈与した本人と贈与を受けた子が、
その事実を他の家族に伝えていないケースです。
相続が発生した後、
預金通帳の履歴などから多額の送金が判明すると、
他の相続人は不信感を抱きます。
「自分だけ何も聞いていなかった」
「親の判断能力が低下してからお金を受け取ったのではないか」
「まだ隠している財産があるのではないか」
こうした疑いが生じると、単なる計算上の問題では済まなくなります。
生前贈与を行う場合には、
その金額、目的、贈与日を記録しておくことが重要です。
また、その贈与を将来の相続分に含めて考えるのか、
それとも相続とは別に与えるのかについても、
遺言書などで意思を示しておくことが望ましいでしょう。
パターン4 遺言書がない、または内容が曖昧である
遺言書がない場合、
相続人全員で遺産分割協議を行い、
誰がどの財産を取得するかを決める必要があります。
遺産分割協議は、
相続人全員が合意しなければ成立しません。
一人でも反対する相続人がいれば、
不動産や預貯金の相続手続きを進められない可能性があります。
政府広報でも、
遺言書がある場合は原則としてその内容が優先され、
遺言書がない場合などには、
民法のルールを踏まえて
相続人間の遺産分割協議を行うことが説明されています。
もっとも、
遺言書を作成していれば必ず安心というわけではありません。
「長男に自宅を任せる」
「財産は子どもたちで仲良く分ける」
このような表現では、
どの財産を誰に、
どの割合で相続させるのかが明確ではありません。
また、遺言書の作成方法に不備があると、
遺言そのものの有効性が争われることもあります。
特に自筆証書遺言では、
日付、署名、押印、訂正方法などに注意が必要です。
相続トラブルを防ぐ目的で遺言書を作成するのであれば、
財産を特定し、
取得する人と割合を具体的に記載することが重要です。
パターン5 特定の相続人にすべての財産を相続させる遺言がある
「長男にすべての財産を相続させる」
このような遺言書が残されている場合も、
トラブルになる可能性があります。
遺言書は、
被相続人の最終意思を実現するための重要な制度です。
しかし、配偶者、子、直系尊属には、
一定の範囲で最低限の遺産取得分である「遺留分」が認められています。
兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分を侵害された相続人は、
財産を多く取得した人などに対して、
遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる場合があります。
現在の制度では、
遺留分に関する権利を行使すると、
原則として侵害額に相当する金銭債権が発生します。
例えば、長男が実家を含む全財産を相続した後、
他の子から遺留分侵害額請求を受けるケースがあります。
長男に十分な現金がなければ、
遺留分を支払うために、
相続した不動産を売却しなければならなくなるかもしれません。
特定の相続人に財産を集中させる場合には、
遺留分を考慮して、
他の相続人に預貯金や生命保険金などを
残す方法を検討する必要があります。
パターン6 相続人同士の関係が疎遠である
相続人同士が長期間連絡を取っていない場合も、
遺産分割協議が難航しやすくなります。
兄弟姉妹であっても、進学、就職、結婚、離婚、
親との関係などをきっかけに疎遠になることがあります。
被相続人に前婚の子がいる場合や、
認知した子がいる場合には、
現在の家族と面識がないこともあります。
しかし、面識がない、連絡先を知らないという理由だけで、
その人を遺産分割協議から除外することはできません。
戸籍を収集して法定相続人を確認し、
相続人全員の合意を得る必要があります。
疎遠な相続人に突然書類を送り、
「ここに実印を押してください」と求めても、
警戒される可能性があります。
相手から見れば、遺産の全体像も分からないまま、
権利を放棄するよう求められていると感じるかもしれません。
疎遠な相続人がいる場合には、相続財産の内容、
評価方法、分割案の理由を丁寧に説明することが重要です。
パターン7 財産を管理していた相続人がいる
被相続人が高齢になると、
同居している子などが通帳やキャッシュカードを預かり、
生活費や介護費を管理することがあります。
適切に管理していたとしても、
相続発生後に他の相続人から疑われるケースがあります。
「亡くなる前に多額の預金が引き出されている」
「何に使ったのか分からない」
「自分のために使ったのではないか」
このような疑いから、
使途不明金をめぐる争いに発展します。
財産管理を行う場合には、支出の記録を残し、
領収書や請求書を保管しておくことが大切です。
被相続人の生活費と、
財産を管理する人自身の生活費は、
明確に分けなければなりません。
また、被相続人の判断能力が低下している場合には、
単に家族が通帳を預かる方法だけでなく、
成年後見制度や家族信託など、
本人の財産を適切に管理する仕組みを検討する必要があります。
パターン8 被相続人に借金や保証債務がある
相続では、
預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、
借金などのマイナスの財産も原則として引き継ぐことになります。
相続人が借金の存在を知らないまま、
預金を解約したり、
不動産を処分したりすると、
相続を承認したものとして扱われる可能性があるため
注意が必要です。
相続放棄は、原則として、
自分のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に
家庭裁判所へ申述する必要があります。
裁判所は、相続放棄について、被相続人の権利や財産だけでなく、
債務も含めて一切受け継がないための手続きと案内しています。
借金があるか分からない場合には、
預貯金、不動産、税金、ローン、
クレジットカード、事業上の債務、連帯保証債務などを調査する必要があります。
特に個人事業主や会社経営者の場合、
本人名義の借入れだけでなく、
会社の借入れに対する個人保証が残っていることがあります。
相続財産の調査が終わる前に、
安易に遺産を処分しないことが大切です。
パターン9 親の事業や農地を誰が引き継ぐか決まっていない
被相続人が会社や個人事業を経営している場合、
事業用資産や自社株式の承継が問題になります。
事業を引き継ぐ子と、
事業に関与しない子がいる場合、
単純に財産を平等に分けると、
事業継続に支障が生じる可能性があります。
例えば、自社株式や事業所の土地を複数の相続人で共有すると、
重要な意思決定や将来の売却が難しくなることがあります。
農地を所有している家庭も注意が必要です。
農地は、通常の宅地と異なり、
農地法上の規制があります。
相続による農地の取得自体について
農地法3条の許可は不要ですが、
農業委員会への届出が必要です。
また、相続後に農地を売却したり、
住宅や駐車場などに転用したりする場合には、
別途、許可や届出が必要になることがあります。
事業用財産や農地については、
「財産として誰が取得するか」だけでなく、
「誰が管理し、どのように利用するか」まで決めておく必要があります。
パターン10 名義変更を長期間放置している
過去の相続手続きを行わないまま、
不動産の名義が祖父母や
曽祖父母のままになっているケースがあります。
相続登記を放置すると、
その後の相続によって相続人が増え、
権利関係が複雑になります。
当初は子ども3人だけで話し合えば済んだものが、
数十年後には孫やひ孫まで含め、
十数人の合意が必要になることもあります。
相続人の中に亡くなった人、行方不明者、認知症の人、
海外居住者がいると、手続きはさらに難しくなります。
令和6年4月1日から相続登記が義務化され、
過去に発生した相続で未登記となっている不動産も義務化の対象です。
施行前の相続については、
原則として施行日から3年間の猶予期間が設けられています。
相続登記を後回しにすることは、
問題を解決するのではなく、
次の世代に先送りすることになります。
その他に注意したい相続トラブルの兆候
ここまで紹介したケース以外にも、
次のような事情がある家庭は注意が必要です。
被相続人が再婚している、
前婚の子がいる、内縁の配偶者がいる、
養子縁組をしている、子どもがいない、
兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる、
相続人の一人に認知症や判断能力の問題がある、
相続人が海外に住んでいる、行方不明の相続人がいる、
共有名義の不動産がある、
収益物件がある、
生命保険の受取人が
特定の相続人だけになっているといったケースです。
一つでも該当すれば必ず争いになるわけではありません。
しかし、複数の要素が重なっている場合には、
相続発生後の話し合いが難しくなる可能性が高まります。
相続トラブルを防ぐための生前対策
相続トラブルを防ぐためには、
相続が発生してから対応するのではなく、
本人が元気なうちに準備を始めることが重要です。
財産目録を作成する
まず、どのような財産と
債務があるのかを整理しましょう。
預貯金、不動産、有価証券、生命保険、車、貴金属、
貸付金、事業用財産、借入金、保証債務などを一覧にします。
通帳や権利証を一か所に集めるだけでなく、
金融機関名、支店名、口座の種類、
不動産の所在地などを記載しておくと、
相続人が調査しやすくなります。
相続税は、正味の遺産額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で
計算される基礎控除額を超える場合、
原則として申告と納税が必要です。
財産目録を作成することで、
相続税申告の必要性についても事前に検討しやすくなります。
遺言書を作成する
誰に、どの財産を、どの割合で承継させるかを
明確にしたい場合には、遺言書が有効です。
特に、不動産がある、相続人同士が疎遠である、
前婚の子がいる、子どもがいない、
事業を特定の人に承継させたいといった場合には、
遺言書を作成する必要性が高いといえます。
ただし、遺言書を作成する際には、
遺留分や相続税、
遺言執行の方法まで考慮しなければなりません。
法的な形式を確実に整えたい場合には、
公正証書遺言を検討する方法もあります。
家族で話し合う
遺言書を作成しても、
その理由が相続人に伝わっていなければ、
不満が残ることがあります。
例えば、介護をしている長女に自宅を相続させる場合、
他の子どもに何の説明もなければ、
「長女だけが親を誘導したのではないか」と疑われるかもしれません。
本人が判断能力を有しているうちに、
財産の分け方とその理由を家族へ説明しておくことが大切です。
もちろん、
財産額や遺言書の全文を必ず公開しなければならないわけではありません。
少なくとも、
自分がどのような考えで
相続の準備をしているのかを伝えるだけでも、
相続人の受け止め方は変わります。
生命保険を活用する
生命保険は、
不動産を相続する人が他の相続人へ代償金を支払うための資金や、
葬儀費用、当面の生活費などを
準備する方法として活用できます。
死亡保険金は、原則として
契約上の受取人が自分の権利として受け取るため、
通常の遺産分割協議を経ずに請求できる点が特徴です。
ただし、相続税の計算上は、
一定の場合にみなし相続財産として扱われます。
また、特定の相続人だけが
著しく多額の保険金を受け取る設計にすると、
他の相続人との不公平感につながる可能性があります。
生命保険だけで相続対策が完結するわけではないため、
遺言書や遺産全体の分け方と併せて検討する必要があります。
すでに相続人同士でもめている場合の相談先
相続人間ですでに意見が対立している場合には、
問題の内容に応じて相談先を選ぶ必要があります。
相続人同士の代理人として交渉することや、
法的紛争の解決を依頼する場合は、
弁護士への相談が必要です。
不動産の相続登記については司法書士、
相続税の申告や税額計算については税理士が専門となります。
行政書士は、相続人間に争いがないことを前提に、
戸籍の収集、法定相続情報一覧図の作成支援、相続関係説明図、
財産目録、遺産分割協議書、遺言書原案などの
書類作成を支援できます。
相続手続きでは、
一つの専門家だけで完結しないこともあります。
そのため、相談時には、現在どの段階にあり、
何について困っているのかを整理して伝えることが大切です。
まとめ 「財産が少ないから大丈夫」とは限らない
相続トラブルは、
財産の多い家庭だけに起こるものではありません。
自宅と少しの預貯金だけという家庭でも、
不動産を誰が取得するか、介護への貢献をどう考えるか、
生前贈与をどう扱うかなどをめぐり、
意見が対立する可能性があります。
特に、次のようなケースでは早めの準備が必要です。
遺産の大部分が不動産である、
同居や介護をしている相続人がいる、
特定の子だけが生前贈与を受けている、
相続人同士が疎遠である、前婚の子がいる、
事業用財産や農地がある、借金の有無が分からない、
相続登記を放置している場合です。
相続対策で重要なのは、
単に法定相続分どおりに分けることではありません。
財産の内容、家族関係、介護への貢献、
各相続人の生活状況などを踏まえ、
本人の意思を明確に残すことが大切です。
財産目録の作成、遺言書の準備、生命保険の活用、
家族との話し合いなど、生前にできる対策は数多くあります。
「まだ元気だから早い」と考えるのではなく、
元気で判断能力が十分にある今だからこそ、
相続について考えておきましょう。

